戦後横浜野毛界隈 nogelog

大正生まれが野毛界隈を語る。

神をも恐れぬ泥棒

 ある早朝、都橋交番に一人の男が駆け込んで来て、「泥棒が伊勢山皇大神宮本殿の銅葺き屋根をはがしている」と届け出た。伊勢山は管轄外だが、そんなことは言っていられない。竹さん達は猟犬のように交番を飛び出した。竹さんを含めて六名程の巡査が一斉に飛び出したので届け出人はアッケに取られていた。竹さん達は野毛通りを駆け上がり、伊勢山の表参道と裏参道に分かれて駆け付けたので泥棒に逃げ道はない。当時の警察官は戦争体験者ばかりだから、こんな行動は自然に行われた。しらじら明けの境内は静まりかえり、ただ、バリバリと銅板をはがす音だけが聞こえる。竹さん達は立ち入り禁止の柵を乗り越えて本殿の裏にまわったところ、はがした銅板を丸めて束にしたものが三個程、地面に落してある。見上げると屋根の上に三名の若者の頭が見える。  「オイッ!神様のバチが当たるゾッ!降りて来いッ!」と一喝すると、キョトンとした顔が三つ屋根の上に並んだ。シブシブ梯子で降りて来た若者に、銅板の束を背負わせ、捕縄でつないで意気揚ようとひきあげた。当時の巡査は捕縄という犯人を縛る細い麻縄だけが渡されており、手錠は自分で買っていたので、手錠のない者もいた。それにしても、この事件で神社は大変な被害だったと思うが、泥棒にバチが当ったという話は聞かない。


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