戦後横浜野毛界隈 nogelog

大正生まれが野毛界隈を語る。

怪我の功名

 酔っ払いと病人の区別は困難だ。両方とも保護の対象だが、病人は病院に連れて行かなければならないのだ。竹さんは、物事を大げさに考える性格なので、結果的に大したことがないと必ず非難される。とくに看護婦さんはキツイ。「こんなの連れてきて馬鹿じゃない?」という調子だ。だが、竹さんは、これを正しいと頑固に思い続けた。ある日、竹さんが巡回中、一目見て風太郎とわかる若者が道路に倒れてうめいていた。道行く人びとは酔っ払いが倒れていると思ってか見向きもしないで通りすぎる。竹さんは、病人かも知れないと持ち前の大げさな判断をして救 急 車を呼んで警友病院に収容した。竹さんは、そのとき、ただの酔っ払いなら医師や看護婦などに非難されるだろうと内心考えたが、そのときは、そのときで「よかった、よかった」とトボケようと思った。ところが、その若者は腸捻転だったので、緊急手術の結果、一命を取り留めた。病院で身元を確認したところ、家出中だったが、金持ちの家庭の次男だったので探していた家族のもとに帰ることができた。喜んだ家族が署長宛てに礼状と金一封を送ってきたので、竹さんは人命救助で表彰され、当時としては、かなり多い額の金一封を頂いた。その後の竹さんの大げさ判断は、非難と笑いをうけながら、はずみをつけて、いつまでも続いた。
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