戦後横浜野毛界隈 nogelog

大正生まれが野毛界隈を語る。

暴力米兵対都橋の竹さん

竹さんの一生で死刑を覚悟したことが一回だけある。それは、二十三歳の夏のことだ。巡回をおわって交番の前までくると、交番の頑丈な外開きの扉が閉まっているのだ。ガラス越しに中を見ると、米兵がわめいており、同僚は相手が相手だから、消極的である。竹…

竹さんの変身

体験は人を変える。検挙した犯人を取り返された悔しさは、おとなしかった竹さんを百八十度変えてしまった。いや、変えられてしまったと言った方が正確かも知れない。善良な住民を守るべき警察官が倶利伽羅紋紋の入墨に恐れおののいてどうするか。この自責の…

弱気の失敗

新米巡査は、どこか間抜けな顔をしているのか、デンスケという街頭博打をしている極道も新米巡査が通りかかっても馬鹿にして止めようとしなかった。竹さん達四人の新米巡査は、デンスケを捕まえて交番に連れて行く途中、うしろから「やい、てめェら、なんで…

 [竹さん]功労者転じて間抜け野郎

交番に勤務して一週間程すぎたころ、伊勢佐木町三丁目の質屋に二人組の強盗が押し込み、現金二万円を奪って逃げた事件がおこった。独身寮にいた竹さんたちは、すぐ呼び出された。署長は細かい指示をして張込み場所に竹さんたちを配置した。桜木町駅に配置さ…

野毛のまち(伊奈正人)

私の生まれた実家の近くは歓楽街である。ヌード劇場や、ピンク映画館や、連れ込み宿などなどが、昔も今も建ちならんでいる。同級生には、そういうギョーカイの子どももいるわけである。だからおよそ小学生が聞くべきでないような話題が聴けてしまうし、また…

[竹さん]昭和二十三年頃の野毛かいわい  

交番の前に立つと、野毛大通りの車道の両側は、ギッシリと露店が立ち並び、衣類や靴を売る店でいっぱいだった。交番から桜木町駅に向かう花咲町一丁目の道路も、車道の両側は露店が並び、おもに食い物屋の屋台が多かった。物のなかった時代の人びとは、野毛…

はじまり

この噺は、房総の一農村に生まれ、貧しい生活をおくりながらも家族の愛につつまれて、ノンビリと成長した若者が、戦後の混沌した時代に、米軍占領下の横浜の警察官になり、東洋のカスバといわれた野毛の闇市を管轄する交番に勤務し、ののしられ、こづかれな…