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戦後横浜野毛界隈 nogelog

大正生まれが野毛界隈を語る。

平岡正明『野毛的』とまちの敬老イベント(伊奈正人 2004年9月20日執筆)

 横浜野毛について、けっこう注目されているのだなと思ったのは、平岡正明『野毛的--横浜文芸復興』(解放出版社)を手にとった時である。ネット書店ビーケーワンの紹介文。「大道芸と、美空ひばりと、サンバと刺青と娼婦とジャズの街。ヨコハマの混血文化のなかでも場末ならではの美しさを持っていた野毛に集った人々、通った店、さまざまな思い出を語る」。香具師から、文芸評論家までをこなすこの著者は、はてなのキーワードによれば、最近は日本におけるカルチュラルスタディーズの先駆者などとも言われているらしい。

 この本を読んで、弟の同級生が厨房に立つ餃子が美味いと評判ネット上にこだわりサイトもある。野毛ノヲトというサイトで、野毛情報やノーツ、あと野毛にまつわる資料も「野毛コレクション」として集められている。大谷一郎著『野毛ストーリー』という、野毛者の声を集めた貴重な本が86年に出版されていることもこのサイトで始めて知った。また雑誌が出されていたことも知った。平岡氏が編集したヨコハマB級譚『ハマ野毛』アンソロジーをみると、野毛ビバ系、野毛萌え系の大まかな構図が一望に出来る。

第1章 異国の夕暮をさまよう
平岡正明/中野義仁/福田文昭/森直実/黄成武/田中優子
第2章 ミナトの女、六人半
藤代邦男/大谷一郎/大内順/中泉吉雄/田中優子/笑順/荻野アンナ
第3章 下町硬派
永登元次郎/中野義仁/中村文也/伊達政保/中泉吉雄/陳立人/四方田犬彦/黄成武/アズマダイスケ/大月隆寛石川英輔
第4章 ビバ、下町!
種村季弘/中谷豊/田村行雄/橋本隆雄/森直実/福田豊/大久保文香/鈴木智恵子/平木茂/大久保文香/平岡正明
第5章 大道芸の自由
森直実・加藤桂/雪竹太郎/落合清彦/ルベ・エマニュエル/大久保凡/視察団座談会/水野雅広
第6章 in & out
森直実/宮田仁/高橋長英/田井昌伸/中島郁/見角貞利/佐々木幹郎/大内順/福田豊/織裳浩一/藤沢智晴/大久保文香/中谷浩/平岡正明vs.橋本勝三郎/田中優子vs.平岡正明平岡正明梁石日三波春夫

 世界各国から人が集まる大道芸から、下町、異国情緒などなど。ただし、90年代に盛り上がった野毛ルネサンスだったにしても、最近はややくたびれてきているように思われる。大道芸なども、始まったころに比べるとものすごい盛況ではあるけど、主要なイベント会場は大資本がバックにいるみなとみらいの方に移りつつある。

 野毛自体は、昨今はさほどの前進はないと思う。そのなかで例外的に新しく立ち上がったのが、野毛にぎわい座である。落語や演芸をする小ホール。出来たときは、岡山にミニシアターのシネマクレールが出来たときと同じように、大丈夫かいなと思ったけど、今のところ続いている。今日は敬老会で、うちの両親はそこに行っている。演芸などもあるようだが、メインは、町内の二世会青年部の寸劇みたいなもの。おっちゃんたちが、白鳥の湖とか、水戸黄門とかをやって、大爆笑だという。面白い企画だなぁと思う。

 白鳥・・はものすごく上手くて、というか上手すぎてシーンとなってしまい、あまりうけなかったらしい。それはそれで男のバレーでよいと思うのだが、すごく悔しがっていたらしい。今年の水戸黄門は、黄門様、助さん、格さん、お銀、悪代官などなどオールキャストで、大爆笑だったという。そして、最後は地元選出の松本健という市会議員のかたが、ホンモノ顔負けのコスプレで、なんとマツケンサンバをやって、今までにない大喝采だったと、辛口の親も絶賛していた。みんな芸達者で馬路面白いらしい。地元の小学校、中学校からも、出し物がでて、最後はみんなの母校である本町小学校の校歌をうたってちゃんちゃん。

 野毛は「老人が安心して一人で死ねる街」などと言われているわけで、歓楽街、博打街である一方で、非常に面白い人間関係があり、またなんともいえぬ街の活力がある。近くの浜マイクな映画館の方に目をやれば、「阪妻映画祭」@シネマジャックほか、卓抜な企画力の映画が上映されているし、アート系の映画館もあるし、またライブハウスだって、クレージーケンだとか、いろんなアーチストゆかりの場所が野毛界隈にはある。ゆずが、路上で歌っていたのは、松坂屋の前だし、そのゆずも、けっこうやばいバイトとかしていたわけだし。野毛坂には老舗の古本屋があり、その上には図書館、能楽堂、文化センターなどなど。ジャズ喫茶のちぐさを知らない人はジャズファンにはいないだろう。そして、ワクワクするような得体の知れない飲み屋街が広がっている。なにやらかにやらひととおりととのっていて、息が詰まるような過剰なまでの文化的な生気が発散されている。こういう街は、区画整理、再開発というようなロジックではとらえきれない魅力がある。
 私は、都市や地域の専門ではないし、故郷の調査はやはり自粛すべきだろうとは思う。野毛裏の出身で、文化社会学をやっているからと言って、訳知り顔で何かを語ることには、吐き気がする。ろくに挨拶もできないコミュ障で、地元の青年会などとは無縁でここまできた。二十年くらい他にすんでいたわけだし。ひとつだけ、言い訳できるものがあるとすれば、神輿を担ぎ続けていることだろうか。