戦後横浜野毛界隈 nogelog

大正生まれが野毛界隈を語る。

崖下の鉄火場つぶし

 竹さんは、交番の管内にある鉄火場と言われていた博打場二つを交番だけで行った手入れに参加した。指揮者は方面担当の巡査部長だ。明日の午後四時に隣接署の空き交番に、完璧な変装をして集合するように指示された。翌日の指定時間になると、隣接署の空き交番は異様な風体の若者で一杯となった。指揮者は、梯子一、鉄線切りクリッパー一を用意していた。指揮者は人員を数組に編成して、三三五五バラバラになって野毛山公園に移動するように指示した。竹さん達が「なにするのか」といぶかりながら野毛山公園に集合したとき、はじめて野毛山の崖下にある鉄火場の手入れをすることがつ 告げられ、それぞれ綿密な役割分担を指示された。人員を甲隊と乙隊の二隊に分け、甲隊は見張りのいる表から、乙隊は険しい石垣の崖に守られていて、見張りのいない裏側から突入を指示された。裏側の崖上は幅一メートル程の狭い道があり、有刺鉄線が張られている。まず、乙隊が崖道を包囲し、クリッパーで鉄線を切り、崖に梯子を掛けて音もなく鉄火場に入り、盆茣蓙をグルリと取り巻いた。その瞬間、指揮者が「それまでだッ!」と一喝した。そのとき、表で「マッポウッ!」と血を吐くような見張りの悲痛な声が聞こえた。手入れの役割分担は完璧だったので全員逮捕し、証拠品も押収して手入れは成功した。   
f:id:nogelog2014:20140902105903:plain