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戦後横浜野毛界隈 nogelog

大正生まれが野毛界隈を語る。

デンスケ賭博師のハイカラ老人

 野毛の町に一際目立つ奇怪な老人がいた。名前を知る者は仲間内にもおらず、「じいさん」でとおっていた。噂では、十六歳位の美しい女房がいるとのことで、そのためかろうじん老人のみなりは、かなりハイカラだった。白髪頭に派手なサラサ模様のスカーフで鉢巻をしている。それに白い髭をたくわえた容貌は、どこかベートウベンに似ている。自分で開発?した一メートル平方位のベニヤ板に時計の文字盤のようなデザインを書いた道具を使ってデンスケ賭博をやっていた。近所の人の話によると、前歯一本しかない老人のなめらかなシャベリが面白いとのことだ。「サァ張った、サァ張った、張って悪リィは親父の頭、張らなキャ食えネェ提灯屋、サァ、サァ張った、張った」とやると、リンゴ箱を重ねた台に乗せたベニヤ板のまわりを取り巻いたサクラ(仲間)が百円札をポンポンと好きな文字の上に張る。「サァ始めるよ、始めるよ」とオドケた声で「ドッコイ、ドッコイ」と言いながら盤の上の針をクルクル回す。針の止まったところに賭けた者が盤の上の掛け金を全部貰うのだそうだが、糸で操作しているので客は勝てない。だが、「じいさんとサクラの演技?」がうまいので、立ち止まって見ているうちに、引きこまれてしまうわけだ。その頃の交番の横には取り上げたリンゴ箱がいつも積んであった。

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