戦後横浜野毛界隈 nogelog

大正生まれが野毛界隈を語る。

浮浪児たぬき

 終戦後間もない野毛の町には、戦争で身内を失い、天涯の孤児となった少年がいた。「たぬき」も、その一人で愛くるしい男の子だった。「たぬき」という呼び名は子狸のように可愛かったので露店の人がつけたのだろう。年齢は六歳位だったか、ボロをまとって露店の使い走りをして健気にくらしていた。交番と市役所で保護施設に入れても、無法地帯のもつぬくもりが忘れられないのか子犬のようにすぐ帰ってくる。ついに根負けしてしまい、露店の人びとが世話をしていた。ある寒い冬の夜、竹さんは、先輩とともに巡回から帰る途中、寒風の吹き付ける屋台に丸くなってね 寝ている「たぬき」をみつけた。人情の厚い先輩が「竹さん、このままでは凍え死ぬぞ、交番に連れて行こう。」と言ったので、竹さんは、着ていた制服のオーバーコートを脱いで「たぬき」をくるみ、横抱きにして桜木町駅前交番に連れて行き、ストーブのそばに長椅子を置いて、そこに寝かせた。しばらくすると、青かった少年の顔に赤味がでてきた。先輩と竹さんは安心して同僚に少年を頼んで休憩室に入った。その頃の交番には、そんな仕事もあったわけだ。
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